巻第五|秋歌 下

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トピックのレビュー
   

展開ビュー トピックのレビュー: 巻第五|秋歌 下

550

なべて世の
惜しさに添へて
惜しむかな
秋より後の
秋の限りを
549

身に代へて
いささか秋を
惜しみみむ
去らずともろき
露の命を
548

かくしつつ
暮れぬる秋と
老いぬれど
しかすがになほ
物ぞ悲しき
547

夏草の
仮初めにとて
越しやども
難波の浦に
秋ぞ暮れぬる
546

打ち群れて
散る紅葉葉を
訪ねれば
山路よりこそ
秋は行きけれ
545

行く秋の
形見なるべき
紅葉葉は
明日は時雨と
降りやまかなん
544

竜田姫
今はの頃の
秋風に
時雨を急ぐ
人の袖かな
543

紅葉葉を
そこそ嵐の
払ふらめ
この山本も
雨と降るなり
542

飛鳥川
瀬々に波寄る
紅なゐや
葛城山の
木枯しの風
541

飛鳥川
紅葉は流る
葛城の
山の秋風
吹きそし暮らし
540

散りかかる
紅葉の色は
深けれど
渡れば濁る
山川の水
539

移らなく
片野に立てる
橋紅葉
散りぬばかりに
秋風ぞ吹く
538

松に這ふ
真砂の葛
散りにけり
遠山の秋は
風荒ぶらむ
537

露時雨
漏る山蔭の
下紅葉
濡るとも折らむ
秋の形見に
536

紅葉葉の
色に任せて
常盤木も
風に移ろふ
秋の山かな
535

人は来ず
風に木の葉は
散り果てて
夜な夜な虫は
声弱るなり
534

楓葉も
踏み分け難く
なりにけり
必ず人を
待つとなけれど
533

古里は
散る紅葉葉に
埋もれて
軒の忍ぶに
秋風ぞ吹く
532

時分かぬ
波さへ色に
出づみかは
ははその杜に
嵐吹くらし
531

ははそ原
雫も色や
変はるらむ
杜の下草
秋深けり
530

竜田山
嵐や峰に
弱るらむ
渡らぬ水も
錦絶えけり
529

入日さす
佐保の山辺の
ははそ原
曇らぬ雨と
木の葉降りつつ
528

思ふこと
なくてぞ見まし
紅葉葉を
嵐の山の
麓ならずは
527

心とや
紅葉はすらむ
竜田山
松は時雨に
濡れぬものかは
526

涼香川
深き木の葉に
日数経て
山田の原の
時雨をぞ聞く
525

神なびの
三室の梢
いかならむ
なべての山も
時雨する比
524

薄霧の
立ち迷ふ山の
紅葉葉は
さやかならねど
それと見えけり
523

いつの間に
紅葉しぬらむ
山桜
昨日か花の
散るを惜しみし
522

鵲の
雲の架け橋
秋暮れて
夜半には霜や
冴え渡るらむ
521

長月も
幾有明に
なりぬらむ
浅茅の月の
いとど寂しゆく
520

秋深き
淡路の島の
有明に
傾く月を
送る浦風
519

寝覚めする
長月の夜の
床寒み
今朝吹く風に
霜や置くらむ
518

きりきりす
鳴くや霜夜の
寒しろに
衣片敷き
一人かも寝む
517

秋深ぬ
嘆けや霜夜の
きりきりす
やや影寒し
蓬生の月
516

色変はる
露をば袖に
置き迷ひ
うら枯れてゆく
野辺の秋かな
515

訪ふ人も
嵐吹き添ふ
秋は来て
木の葉にうつむ
宿の道芝
514

あだに散る
露の枕に
伏し侘びて
うつらなくなり
床の山風
513

入日さす
麓の尾花
うちなびき
高き秋風に
うつらなくらむ
512

秋を経て
あはれも露も
深草の
里訪ふものは
うつらなりけり
511

寝覚めする
袖さへ寒き
秋の夜の
嵐吹くなり
松虫の声
510

秋風に
しほるる野辺の
花よりも
虫の音いたく
枯れにけるかな
509

今よりは
また咲く花も
なきものを
いたく名残き
菊の上の露
508

九重に
移ろひぬとも
菊の花
本の真垣を
思ひ忘るな
507

霜を待つ
真垣の菊の
宵の間に
置き迷ふ色は
山の葉の月
506

秋風の
袖に吹き巻く
峰の雲
翼に懸けて
雁も鳴くなり
505

吹き迷ふ
雲居を渡る
初雁の
翼にならす
四方の秋風
504

村雲や
雁の博士に
晴れぬらむ
声聞く空に
澄める月影
503

大江山
傾く月の
影冴えて
遠田の面に
落つる雁が音
502

白雲を
翼に懸けて
行く雁の
門田の面を
友と慕ふなる
501

横雲の
風に分かるる
東雲に
山とび越ゆる
初雁の声
500

雁が音は
風に競ひて
過ぐれども
我が待つ人の
言づてもなし
499

初雁の
葉風すずしく
なるなへに
誰が旅寝の
衣替へせぬ
498

秋風に
山飛び越ゆる
雁が音の
いや遠ざかり
雲隠れつつ
497

垣ほなる
沖の葉そよぎ
秋風の
吹くなるなへに
雁ぞ鳴くなる
496

鳴く雁の
音をのみぞ聞く
小倉山
霧立ちはるる
時しなければ
495

山里に
霧の真垣の
隔てずば
遠方の人の
袖も見てまし
494

麓をば
打ちの川霧
立ち込めて
雲居に見ゆる
朝日山かな
493

曙や
河瀬の波の
高瀬舟
砕くか人の
袖の秋霧
492

寂しさは
深山の秋の
朝曇り
霧にしほるる
槇の下露
491

村雨の
露もまた干ぬ
槇の葉に
霧立ち昇る
秋の夕暮
490

秋の夜は
はや長月に
なりにけり
理なりや
寝覚めせらるる
489

秋の夜は
衣寒しろ
重ねても
月の光に
しく物ぞなき
488

一目見し
野辺の景色は
うら枯れて
露の寄すがに
宿る月かな
487

一人寝る
山鳥の尾の
下垂り尾に
霜置き迷ふ
床の月影
486

秋は尽く
夜更け方の
月見れば
袖も残らず
露ぞ置きける
485

更けにけり
山の端近く
月冴えて
遠き里に
衣打つ声
484

千度打つ
砧の音に
夢覚めて
物思ふ袖の
露ぞ砕くる
483

み吉野の
山の秋風
夜更けて
古里寒く
衣打つなり
482

雁鳴きて
吹く風寒み
唐衣
君待ちかてに
打たぬ夜ぞなき
481

古里に
衣打つとは
行く雁や
旅の空にも
鳴きて作らむ
480

秋とだに
忘れむと思ふ
月影を
さもあやにくに
打つ衣かな
479

まどろまで
眺めよとての
すさびかな
麻のさ衣
月に打つ声
478

里は荒れて
月やあらぬと
恨みても
誰浅茅生に
衣打つらむ
477

衣打つ
根山の庵の
しばしばも
知らぬ夢路に
結ぶ玉枕
476

衣打つ
音とは枕に
菅原や
伏見の夢を
幾夜残しつ
475

秋風は
身にしむばかり
吹きにけり
今やうつらむ
妹が笠衣
474

跡もなき
庭の浅茅に
結ぼほれ
露の底なる
松虫の声
473

虫の音も
長き夜飽かぬ
古里に
なほ思ひ添ふ
松風ぞ吹く
472

きりきりす
夜寒に秋の
なるままに
弱るが声の
遠ざかりゆく
471

野原より
露の縁を
尋ね来て
我が衣手に
秋風ぞ吹く
470

露は袖に
物思ふころは
さそなへど
置くかならず
秋のならひならねど
469

物思ふ
袖より露や
ならひけむ
秋風吹けば
絶えぬ物とは
468

秋の野の
草葉をしなみ
置く露に
濡れてや人の
訪ね行くらむ
467

庭の面に
茂れる蓬に
事寄せて
心のままに
置ける露かな
466

露しげみ
野辺を分けつつ
唐衣
濡れてぞ帰る
花の雫に
465

おほつかな
野にも山にも
白露の
何事をかは
思ひをくらむ
464

秋されば
置く白露に
我が宿の
浅茅が上葉
色づきにけり
463

秋といへば
契りをきてや
結ぶらむ
浅茅が原の
今朝の白露
462

我が宿の
尾花が梢に
白露の
置きし日よりぞ
秋風も吹く
461

草葉には
玉とも見えつつ
侘び人の
袖の涙の
秋の白露
460

刈りて干す
山田の稲は
袖ひぢて
植ゑし早苗と
見えずもあるかな
459

さ雄鹿の
妻問ふ山の
岡辺なる
早田は枯らし
霜は置くとも
458

秋されば
雁の初風に
霜降りて
寒き夜な夜な
時雨さへ降る
457

今よりは
秋風寒く
なりぬべし
いかでか一人
長き夜を寝む
456

霍公鳥
鳴くさみだれに
植ゑし田を
刈り兼ね寒み
秋ぞ暮れぬる
455

秋来れば
朝明けの風の
手を寒み
山田の樋田を
任せてぞ聞く
454

秋田守る
刈庵造り
我が居れば
衣手寒し
露ぞ置きける
453

分きてなど
庵守る袖の
潮るらむ
稲葉に限る
秋の風かは
452

過ぎてゆく
秋の形見に
さ雄鹿の
己が鳴く音も
惜しくやあるらむ
451

竜田山
梢まばらに
鳴るままに
深くも鹿の
そよぐなるかな
450

一人寝や
いとど寂しき
さ雄鹿の
朝伏す小野の
楠の裏風
449

山里の
稲葉の風に
寝覚めして
夜深く鹿の
声を聞くかな
448

小山田の
庵近く鳴く
鹿の音に
驚かされて
驚かすかな
447

寝覚めして
久しくなりぬ
秋の夜は
明けやしぬらむ
鹿ぞ鳴くなる
446

夜もすがら
妻問ふ鹿の
鳴くなへに
凍(こほ)れる河原の
露ぞ零るる
445

鳴く鹿の
声に目覚めて
忍ぶかな
見果てぬ夢の
秋の思ひを
444

たくべ来る
松の嵐や
絶ゆむらむ
尾上に帰る
さ雄鹿の声
443

我ならぬ
人もあはれや
勝るらむ
鹿鳴く山の
秋の夕暮
442

深山への
松の梢を
渡るなり
嵐にやとす
さ雄鹿の声
441

妻恋ふる
鹿の立ち音を
尋ぬれば
佐山が裾に
秋風ぞ吹く
440

嵐吹く
真葛原に
鳴く鹿は
恨みてのみや
妻を恋ふらむ
439

野分せし
小野の草伏し
荒れはてて
深山に深き
さ雄鹿の声
438

山おろしに
鹿の音高く
聞こゆなり
小野への月に
夜ぞ更けぬる
437

下もみぢ
かつ散る山の
夕時雨
濡れてや一人
鹿の鳴くらむ
巻第五|秋歌 下

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