巻八巻|離別

巻八巻|離別
405

下の生ひの
道はかたがた
分かるとも
行き巡りても
逢はむとぞ思ふ
404

結ぶ手の
雫に濁る
山の井の
明かで人に
別れぬるかな
403

強ひて行く
人を留めむ
桜花
いづれを道と
迷ふまで散れ
402

かき曇らし
言とは降らなむ
春雨に
濡れ衣着せて
君を留めむ
401

限りなく
思ふ涙に
そぼちぬる
袖は乾かじ
逢はむ日までに
400

飽かずして
別るる袖の
白玉を
君が形見と
包みてぞ行く
399

別るれど
嬉しくもある
今宵より
逢ひ見ぬ先に
何を恋ひまし
398

惜しむらむ
人の心を
知らぬまに
秋の時雨と
身ぞ降りにける
397

秋萩の
花をば雨に
濡らせども
君をは増して
惜しとこそ思へ
396

飽かずして
別るる涙
滝に添ふ
水まさるとや
霜は見るらむ
395

言とならば
君留まるべく
匂はなむ
帰すは花の
憂きにやはあらぬ
394

山風に
桜吹き巻き
乱れなむ
花の紛れに
立ち留まるべく
393

別れをば
山の桜に
任せてむ
留めむ留めしは
花のまにまに
392

夕暮れの
真垣は山と
見えななむ
夜は越えじと
宿り取るべく
391

君が行く
越の白山
知らねども
雪のまにまに
跡は尋ねむ
390

かつ越えて
別れも行くか
逢坂は
人頼めなる
名にこそありけれ
389

慕はれて
来にし心の
身にしあれば
帰るさまには
道も知られず
388

人遣りの
道ならなくに
おほかたは
行き憂しと言ひて
いざ帰りなむ
387

命だに
心にかなふ
物ならば
何か別れの
悲しからまし
386

秋霧の
共に立ち出でて
別れなば
晴れぬ思ひに
恋ひや渡らむ
385

諸共に
鳴きて留めよ
蛍の
別れは惜しく
やはあらぬ
384

音羽山
木高く鳴きて
郭公
君が別れを
惜しむべらなり
383

よそにのみ
恋ひや渡らむ
白山の
雪見るべくも
あらぬ我が身は
382

帰る山
何ぞはありて
あるかひは
来ても留まらぬ
名にこそありけれ
381

別れといふ
事はいろにも
あらなくに
心にしみて
侘びしかるらむ
380

白雲の
八重に重なる
遠つ地にも
思はむ人に
心隔つな
379

白雲の
此方彼方に
立ち別れ
心を幣と
砕く旅かな
378

雲居にも
通ふ心の
遅れねば
別ると人に
見ゆばかりなり
377

得そ知らぬ
今心見よ
命あらば
我や忘るる
人や訪はぬと
376

朝な明けに
見えべき君と
頼まねば
思ひ立ちぬる
草枕なり
375

唐衣
立つ日は聞かじ
朝露の
置きてし行けば
消ぬべきものを
374

逢坂の
関しまさしき
ものならば
飽かず別るる
君を留めよ
373

思へども
身をし分けねば
目に見えぬ
心を君に
託べてぞ遣る
372

別れては
程を隔つと
思へばや
かつ見ながらに
かねて恋しき
371

惜しむから
恋しきものを
白雲の
立ち並む後は
何心地せむ
370

帰る山
ありとは聞けど
春霞
立ち別れなば
恋しかるべし
369

今日別れ
明日は近江と
思へども
夜や更けぬらむ
袖の露けき
368

たらちねの
親の守りと
相ひ添ふる
心ばかりは
関など留めそ
367

限りなき
雲居のよそに
別るとも
人を心に
後らさむやは
366

すがる鳴く
秋の萩原
朝立ちて
旅行く人を
いつとか待たむ
365

立ち別れ
因幡の山の
峰に生ふる
松とし聞かば
今帰り来む
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