巻十巻|物名 

巻十巻|物名
花の眺めに
飽くやとて
分け行けば
心ぞ共に
散りぬべらなる
(468)
後蒔きの
遅れて生ふる
苗なれど
あだにはならぬ
頼みとぞ聞く
(467)
流れ出づる
方だに見えぬ
涙川
沖氷む時や
底は知られむ
(466)
春霞
長しかよひ路
なかりせば
秋来る雁は
帰らざらまし
(465)
花ごとに
飽かず散らしし
風なれば
幾そばく
我が憂しとかは思ふ
(464)
秋くれば
月の桂の
宮はなる
光を花と
散らすばかりを
(463)
夏草の
上は茂れる
沼水の
行く方のなき
我が心かな
(462)
あしひきの
山辺にをれば
白雲の
いかにせよとか
変はる時なき
(461)
うば玉の
我が黒髪や
変はるらむ
鏡の影に
触れる白雪
(460)
浪の花
沖から咲きて
散りくめり
水の春とは
風やなるらむ
(459)
彼の方に
いつから先に
渡りけむ
浪路は跡も
残らざりけり
(458)
舵に当たる
浪の雫を
春なれば
いかが咲き散る
花と見ざらむ
(457)
浪の音の
今朝からことに
聞こゆるは
春の調べや
改まるらむ
(456)
あぢきなし
嘆き夏目ぞ
憂きことに
逢ひ来る実をば
捨てぬものから
(455)
いささめに
時待つ間にぞ
日は経ぬる
心はせをば
人に見えつつ
(454)
煙立ち
燃ゆとも見えぬ
草の葉を
誰か笑ひと
名付け初めけむ
(453)
小夜更けて
中畑行く
久方の
月吹き返せ
秋の山風
(452)
命とて
露を頼むに
堅ければ
物侘び知らに
鳴く野辺の虫
(451)
花の色は
ただ一盛り
こけれども
返す返すぞ
露は染めける
(450)
うば玉の
夢に何かは
慰まむ
現にだにも
飽かぬ心は
(449)
空蝉の
殻は木ごとに
留むれど
玉の行方を
見ぬぞ悲しき
(448)
郭公
峰の雲にや
交じりにし
ありとは聞けど
見るよしもなし
(447)
山高み
常に嵐の
吹く里は
匂ひもあへず
花ぞ散りける
(446)
花の木に
あらざらめども
咲きにけり
古りにし木の実
なる時もかな
(445)
うちつけに
来しとや花の
色を見む
置く白露の
染むるばかりを
(444)
ありと見て
頼むぞかたき
空蝉の
世を儚しとや
思ひなしてむ
(443)
我が宿の
花踏みしたく
鳥歌ふ
野はなければや
ここにしも来る
(442)
降りはへて
いざ故郷の
花見むと
来しを匂ひぞ
移ろひにける
(441)
秋近う
野はなりにけり
白露の
置ける草葉も
色変はりゆく
(440)
小倉山
峰立ちならし
鳴く鹿の
経にけむ秋を
知る人ぞなき
(439)
朝露を
分けそほちつつ
花見むと
今その山を
女郎花知りぬる
(438)
白露を
玉に貫くやと
ささがにの
花にも葉にも
糸をみなへし
(437)
我は今朝
憂き日にぞ見つる
花の色を
あだなる物と
言ふべかりけり
(436)
散りぬれば
後はあくたに
なる花を
思ひ知らずも
惑ふてふかな
(435)
人目ゆゑ
後に逢ふ日の
遥けくは
我が蔓きにや
思ひなされむ
(434)
かくばかり
逢ふ日のまれに
なる人を
いかが蔓らし
と思はざるべき
(433)
秋は来ぬ
今や真垣の
きりきりす
夜な夜な眺む
風の寒さに
(432)
み吉野の
吉野の滝に
浮かび出づる
泡をか玉の
清ゆと見つらむ
(431)
葦引の
山立ち離れ
行く雲の
宿り定めぬ
世にこそありけれ
(430)
逢ふからも
桃はなほこそ
悲しけれ
別れむことを
かねて思へば
(429)
今いくか
春しなければ
鶯も
桃の花眺め
思ふべらなり
(428)
勝つけども
浪の中には
裂かれて
風吹くごとに
浮き沈む玉
(427)
あな梅に
常なるべくも
見えぬかな
恋しかるべき
香は匂ひつつ
(426)
袂より
離れて玉を
包まめや
これなむそれと
空蝉見むかし
(425)
浪の
空蝉見れば
玉ぞ乱れける
拾はば袖に
はかなからむや
(424)
久方
時すきぬれや
待ち侘びて
鳴くなる声の
人をとよむる
(423)
心から
花の雫に
そほちつつ
鶯とのみ
鳥の鳴くらむ
(422)
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