巻第二十 釈教歌

巻第二十 釈教歌
朝日さす
峰の続きは
恵めども
また霜深し
谷の陰草
(1946)
惜しなへて
憂き身はさこそ
なるみかた
満ち干る潮の
変はるのみかは
(1945)
惜しなへて
空しき空と
思ひしに
淵咲きぬれば
紫の雲
(1944)
鷲の山
今日聞く法の
道ならで
帰らぬ宿に
行く人ぞなき
(1943)
思ふなよ
憂き世の中を
出で果てて
宿る奥にも
宿はありけり
(1942)
いつくにも
我が法ならぬ
法やある
と空吹く風に
問へど答へぬ
(1941)
立ち返り
苦しき海に
置く網も
深き縁にこそ
心引くらめ
(1940)
春秋に
限らぬ花に
置く露は
遅れ咲き立つ
恨みやはある
(1939)
これやこの
憂き世の外の
春ならむ
花のとほその
曙の空
(1938)
紫の
雲路に誘ふ
琴の音に
憂き世を払ふ
峰の松風
(1937)
色にのみ
染めし心の
悔しきを
空しと解ける
法のうれしさ
(1936)
奥山に
ひとり憂き世は
悟りにき
常なき色を
風に眺めて
(1935)
我が心
なほ晴れやらぬ
秋霧に
ほのかに見ゆる
有明の月
(1934)
極楽へ
また我が心
行き着かず
羊の歩み
しばし留まれ
(1933)
説く身の木
菊の白露
夜は置きて
努めて消えむ
ことをしぞ思ふ
(1932)
願はくは
しばし闇路に
休らひて
掲げやせまし
法の灯火
(1931)
谷川の
流れし清く
澄みぬれば
隈なき月の
影も浮かひぬ
(1930)
紫の
雲の林を
見渡せば
法に逢ふ地の
花咲きにけり
(1929)
数ならぬ
命は何か
惜しからむ
法説く程を
忍ぶばかりぞ
(1928)
海の底
より来つる
程もなく
この身ながらに
身をそきはむる
(1927)
濁りなき
甕井の水を
結びあげて
心の塵を
すすぎつるかな
(1926)
我れだにも
まつ極楽に
生まなれば
知るも知らぬも
皆迎へてむ
(1925)
南無阿弥陀
仏の御手に
かくる糸の
終はり乱れぬ
心ともかな
(1924)
寂寞の
苔の岩屋の
しづけきに
涙の雨の
降らぬ日ぞなき
(1923)
導べある
時にだに行け
極楽の
道に惑へる
世の中の人
(1922)
法の舟
さして行く身ぞ
諸々の
神も仏も
我を見そなへ
(1921)
阿耨多羅
三藐三菩提の
仏たち
我が立つ杣に
冥加あらせ給へ
(1920)
足そよぐ
潮瀬の浪の
いつまでか
憂き世の中に
浮かひ渡らむ
(1919)
山深く
年経る我も
あるものを
いづちか月の
出でて行くらむ
(1918)
何か思ふ
何をか嘆く
世の中は
ただ朝顔の
花の上の露
(1917)
なほ頼め
信濃路原の
薊草
我が世の中に
あらむ限りは
(1916)
巻第二十 釈教歌
返信する